【ショートショート】白いかぐや姫

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白いかぐや姫/村田侑衣
3分で読める恋愛小説

「もうすぐ月からお迎えが来るの」

「……竹出身だっけ?」

「そう。秘密にしてたけど。帰らないといけない決まりだから」

「同じ病院で俺の三日後に生まれたって聞いてたけど?」

「ずっと騙されてたのね。可哀想に」

「アルバムに証拠あるぞ? 赤ちゃんの時から高校卒業までの」

「昔から息子よりも私の写真撮ってたもんね。お母さん」

「本当の娘みたいってずっと言ってるしな」

「うちのお母さんもあなたみたいな息子が欲しいってずっと言ってるよ」

「まあ……ならお互いの親の願いを、さ。親孝行みたいな感じで」

「知ってた? お隣さんになったの私たちが生まれた後らしいよ」

「らしいな。わざわざ引っ越したって。というかスルーすんなよ」

「何が?」

「さっきの。一応プロポーズのつもりだったんだけど」

「え。全然気付かなかった。下手すぎない?」

「仕方ないだろ。勢いというか流れというか」

「流れで求婚するの?」

「いや。ちゃんと準備はしてきた」

「ふーん。なら、とりあえず龍の首の玉を持ってきて」

「その流れは断られるやつだよね?」

「そうね」

「本気?」

「本気。言ったでしょ? 月に帰るって」

「まだそれ続ける? それでもいいよ」

「私がよくないから」

「うーん……ほら。これ」

「……え? ウェディングドレス?」

「そう。準備してきたって言ったろ?」

「気が早すぎない? 断られる可能性は考えなかったの?」

「断られても着せるつもりだったし、むしろ遅かったって思ってる」

「確かに……遅かったとは思う」

「ごめん」

「ううん。ありがとう」

「うん」

「……こんな気持ちで嘘ついたのかな。かぐや姫も」

「あれは嘘じゃないと思うけど。こんな気持ちって?」

「どうか月に帰れますようにって」

「……どうなんだろうな」

「たまに見上げてくれればそれでいいから。私はずっと見てるけど」

「微妙に圧を感じる」

「気のせいよ。多分」

「多分って。まあ、とりあえず着てみようよ。看護師さん呼んでくる」

「ねえ」

「ん?」

「これって燃えないんだっけ?」

「燃えるし燃やすな。アルバム用に写真撮ってこいって言われてんだから」

「ふふっ。そっか」


「最期は一緒に燃やしてね。ちゃんと持って行くから」

   〈了〉

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