140字小説 Vol.9

Twitterで掲載している140字小説まとめ

【雨宿り】

「雨宿り。私も入れてくれませんか?」

 星の降る公園。一人、傘を開く僕に声を掛けてきた見ず知らずの女性に「どうぞ」と返して腰かけたベンチに隙間を作る。

「……月が綺麗ですね」
「……遠くで見てるからですかね」

 風の音に消された会話。濡れる二人に気付かない傘は、月明かりの下で小刻みに揺れる。

【針千本】

 205本目の針を飲ませた途端に動くのをやめた腕の中の嘘つきな彼女。見開いたままの目には涙がにじんでいる。

「ごめんね」

 349本目を小さな口に詰め込みながら僕はそっと呟いた。返事はない。

「もうやめてあげたい……だけど」
 ——嘘ついたら針千本飲ます。
「そういう約束だから」

 僕は嘘をつかない。

【サンタクロースの定義】

「サンタの定義を述べよ」

 物音で目を覚ますと目の前に幼馴染がいた。

「……どこから入った? 何時だと思……」
「述べよ」
「夜中プレゼントをくれる、とか?」
「なるほど」

 一人頷いた彼女は「では君はサンタだ」と言い窓に足をかけた。

「……お前は泥棒だな」

 ほのかに甘い唇。しっかり盗みやがって。

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【理由】

「お姉さんは何のために生きてるの?」
 余命宣告を受けた小さな患者からの問いかけ。悩んだ末「家族のためかな」と答えると「ママと同じだ」と彼女は笑った。
「私は何のために生きてたのかな」
 答えられなかった。きっと誰かのために生きていたわけではない。
「理由がないから生きられないのかな?」

【キス】

 目覚まし時計よりも早いおはようのキスにあなたが気が付くことはない。寝ている間、姿を見られない時間だけに出来る私の唯一の楽しみ。無防備な唇に再度キスを落とす。
 本当は目を開けて欲しいしお喋りしたい。でも、それ以上にずっとそばにいたい。
 だから反対に綴じてしまうことにした。

 瞼も口も。

【代わりにハンカチ落とし】

 静かな駅のホームで突然肩を掴まれた僕。振り向くと知らない男性が立っていた。

「ほら拾って。君が鬼だ」

 視線の先には白いハンカチが落ちている。

「……どういう意味ですか?」
「大した意味なんてない。でも」

 何もないよりいいだろ?
 目当ての特急が音を連れて通り過ぎる。次を待つかはまだ——。

【備えあれば】

「なあ……例えばだけど」
「……ん?」
「人を殺して自殺に見せかけようとしたら、ロープとか用意するじゃん? それから二人きりの状況作ってアリバイ作って……でさ、今ここにロープがあって二人きりじゃん?」
「……ああ」
「アリバイはどうすればいいと思う?」
「……俺は昨日から海外だから」

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