140字小説 Vol.2

Twitterで掲載している140字小説まとめ

【天邪鬼】

「お腹空いた?」と聞くと「空いてない」と言ってお腹を鳴らす君。
「好きだよ」と言うと「嫌い」と言って僕に寄りかかってくる君。
 素直じゃないところも好きだった。

「また喋りたいよ」

 あの日から僕はこの言葉ばかりを繰り返している。
 笑顔の君が返事をくれないのは、きっと「喋りたくない」だけだ。

【嘘ばっかり】

「友達に貰ったシャツ。上司に貰ったジーンズ。親に貰った靴。あなたのお気に入りの嘘達をマネキンに着せてみたの。どう? 可愛い?」

「何言って……」

「全部嘘でしょ? 浮気相手に貰ったんだよね?」

「いや……その」

「いいの。悪いのはこの女の……あ、マネキンってのも勿論嘘だから」

【おれおれ詐欺】

『もしもし。俺だけど』

「たかし……なのか?」

 死んだ息子からの電話。『そう。たかし』という声を聞いて思わず涙が出そうになる。

「……そうか。調子はどうだ?」

『それが金がなくてさ』

 小遣いか……あいつらしい。妙にタイミングがいいのも相変わらずか。

「わかった。母さんに持たせておくよ」

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【パブロフの犬】

 静寂に小さく響く百円ライターの着火音。不規則に揺れる炎は役目を果たせないまま静かに消えた。
 何の意味も持たないこの動作は半年前に別れた彼の癖だった。

 この音の後に抱きしめて貰える。

 この炎が消えれば愛して貰える。

 いまだ未練を断てない私。
 心の穴を塞ぐには小さすぎる親指は在りし日を灯す。

【カーテンコール】

 舞台袖の特等席で眺めるラブストーリーは終盤に差し掛かる。出番を終えた友人Aの僕は夕日を浴びる主演の二人を直視出来ないままでいた。
 おそらくこのまま手を取り口付けを交わしたところで舞台の幕が下りる。どんでん返しも起こらないただのハッピーエンド。

 僕にはきっとカーテンコールは聞こえない。

【かつおぶし】

 昔から鰹節が好きだった。不規則に揺れる姿に覚える安心感は炎の揺らぎのそれに近い。
 自分で削るようになって愛情は更に強くなった。手間の分だけ思い入れは増し、完成品は自分の分身のように可愛い。

 だからプレゼントを鰹節にした。
 君に僕を食べて欲しい。その一心で作った。

 文字通り身を削って。

【代行業務】

「どう責任を取るつもりだ!」

 頭上で響く聞き慣れた怒号。

「大変申し訳ございません」

 額を床に押し当てたまま俺は叫んだ。
 非難代行業を始めて一年。怒鳴られるたびに思う。当事者不在のこの茶番に何の意味があるのだろうか。

「誠意を見せろ!」

 きっと叱責代行業のこいつも同じことを思っている。

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