Twitterで掲載している140字小説まとめ
【隠恋慕】
「もういいかい」
公園に響いた憧れの先輩の声は高校生とは思えないほど無邪気だった。
「まだだよ」
タイミングを計る振りをして自分に言い聞かせてきたその言葉。口には出来なかった。
これ以上隠しきれない恋い慕う気持ち。
もういいよ。
目の前でそう言えば、鬼のあなたは捕まえてくれるのだろうか。
【表裏一体】
増加の一途を辿る詐欺事件。そこで俺はアドバイザーを始めた。
「現金振込の指示があった場合は詐欺です」
大したアドバイスではないが安心感を得られるようで相談は後をたたない。
「相談料に関しては担当に連絡させます」
これで終わり。あとは連絡するだけ。
この情報を買った詐欺グループの後に。
【お母さん】
バスの揺れに合わせて徐々に近づいてくる隣の席の知らない男性。
「奇遇ですね」
ついに話かけてきた。
「多分人違いですよ」
「今日はお母さんと一緒なんですね」
……気味が悪い。私は降車ボタンを押した。
「またお会いしましょう」
ニヤニヤしたまま呟いて手を振り始めた。
私の腹部に向かって。
【マフラー】
「手編みのマフラーなんてつけない」
去年の冬。ラッピングまでした私の想いは、彼のその言葉によって眠ることとなった。
それから結局何も伝える事が出来ずに訪れた次の冬。鞄に入れて持ち歩いていた包みを取り出す。
「……こっちの方が上手なのに」
今年の彼の首には、不恰好な先客が抱きついていた。
【隣を歩きたい】
彼の隣を歩きたい。少し強引な形にはなったが、ようやくその夢を叶える事が出来た。傘をさしているのと鞄を持っているのとで手を繋げないのは残念だが。
「離してくれ」
……やはり迷惑だったか。
このまま彼女になれたら……と考えていたが、そう上手くはいかないようだ。
諦めた私は渋々彼から傘を抜いた。
【アフターバレンタイン】
「ハッピーバレンタイン」
二月十五日。幼馴染が差し出したチョコレートを受け取る僕。
「……余ったのか？」
この十年で初めての出来事だった。「バレたか」と笑う彼女に少し早いお返しを渡す。
「え？ 手袋？」
毎年この時期だけ鞄に入れるお返し。
「……余ってたんだよ」
もう小さいとは思うけど。
【嘘千六百】
「物忘れに効く水です。僕も飲んで……」
店頭販売の男に声を掛けられた私。
「三日前に買いましたよ」
咄嗟に嘘をついた。「本当ですか？」と疑いの目を向ける男。
「私のこと覚えてないんですか？」
「まさか。でも飲み忘れてません？」
「ちゃんと飲みました」
「昨日も同じこと言ってましたよ？」
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