140字小説 Vol.11

Twitterで掲載している140字小説まとめ

【プラグ】

 テレビの電源コードをベッドまで引っ張って、彼の鼻にプラグを挿してみた。どちらも動かなくなって二日目。何かを期待していたわけではない。

「出してくれ!」

 突然明るくなった画面に彼が映った。窮屈そうな表情。テレビの中に……よくわからない。
 ひとまず彼の隣で眠る女に扇風機のプラグを挿した。

【ため息の香り】

 紫煙を纏った小さなため息は、雨粒の隙間に消えていった。

「幸せが逃げるよ?」
「……迷信だろ?」

 いつの間にか隣にいた彼女は「さあ?」と言って笑った。

「私はどこにも行かないよ」

 ——もういいんだ。と、今日も言えなかった。
 線香の香りが漂う傘の中。誰もいない左側を見て再度ため息をつく。

【ハッピーキッチン】

「髪の毛が入ってたんですけど」
 数分前に弁当を買っていった女性。
「すみません! すぐに取り替え……」
 確かに中には髪の毛が……大量の髪の毛だけが入っていた。
 振り返って厨房を覗く。右半分だけ髪がない店長。
「いえ」
 言葉を失う私の背後で女性は言った。
「大盛りってプラス50円ですよね?」

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【一緒になろうね】

「君が一番だよ」
 なら奥さんと私どっちが大切?
「もっと早くに出逢ってれば」
 あなたが結婚した時、私中学生よ?
 馬鹿みたいに繰り返すその意味のない定型文に心の中で悪態をつくのはもう飽きたの。
「来世では一緒になるから」
 あら。初めての台詞ね。嬉しいわ。

 それなら数分の辛抱だし、約束よ。

【僕の家族】

 僕の父は左官屋さんです。
 この前ペットのハナコが庭に開けた大きな穴にコンクリートを流して塗っていました。穴の中に物を隠していたので「お前が悪い」と怒っていましたが、庭はとても綺麗になりました。自慢の父です。
 母はしばらく部屋から出てきていません。

 ハナコも「知らない」と言っています。

【ヒロシ】

 幼馴染のヒロシは昔から止まれない奴だった。鉛筆は最後まで削り続けるし野菜の皮剥きを頼むと全て皮にしてしまう。隠れんぼは休み時間が終わっても出てこない。
 大人になった今でもそうだ。朝が苦手な私の耳元で毎朝叫び続ける。

「起きて起きて起きて」

 起きてもやめないし隠れんぼも続いている。

【正夢】

「昨日見た夢と同じ」
 土下座をする僕の頭上で彼女は突然呟いた。
「浮気相手とのメールを私が見つけて別れ話になる夢。正夢だったね」
「……ごめん」
「夢でも聞いた」
「そう言われても……ごめん」
 とにかく謝るしかない。
「もうあの人達とは連絡取らないから」
「全く同じ。ここで目が覚めたの」

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