マトリョーシカ/村田侑衣
1分で読める不思議な小説
死んだ妻の体を言われていた通りに切り開くと、中から一回り小さな妻が出てきた。出逢った時よりも随分若い姿で突然現れた彼女は、腰の辺りで真っ二つになった元の自分を。六十歳の抜け殻を眺め続けている。皺こそなくなってはいるが、その横顔は、間違いなく二十年間隣にあった愛する妻の横顔だった。
「生き返った……ということでいいのかい?」
二十歳くらいの頃の姿なのだろうか。急に自分の半分ほどの年齢になった妻に対してどう接するべきなのか一瞬悩んだが、ひとまず僕は声をかけてみた。
「生き返る……あの、あなたは誰ですか?」
こちらを向いた彼女は首をかしげながら口を開いた。覚えていないのだろうか。
「僕は君の夫だよ」
笑顔でそう答えた僕はすぐに気が付いた。この言葉に聞き覚えがある。
——私はあなたの妻よ。
あの日、初めて会ったはずの妻が発した言葉。
「一つお願いがあるんだ」
僕は、ようやく意味がわかったその言葉を目の前の彼女に伝えた。
「僕が死んだら——」
〈了〉
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