【掌編小説】二度目のプロポーズ

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二度目のプロポーズ/村田侑衣
1分で読めるSF小説

「結婚しよう」

 笑顔を浮かべる彼が差し出した手をじっと見つめる。一年前と同じ場所、同じ台詞。予定調和のプロポーズ。あとは断るだけだった。

 半年間の交際を経て彼と結婚した私は、白のウェディングドレスを身に纏ったあの日から今日までの一年、後悔しかしていない。
 日増しに酷くなる暴力。罵声に怯えながら過ごす日々。
 すでに精神的には限界を迎えていたが、恐怖から別れを切り出すことが出来ずにいた。

 だから、結婚そのものをなかったことにするために過去へとやってきた。

 過去の私に事情を説明したが、やはり理解はしてくれなかった。
 これはあなたのためでもある。言い聞かせるように頭の中でそう繰り返しながら、こっそり彼に連絡をしてデートの日を一日早めた。私が代わりに彼との関係を絶てばいい。そう考えていた。
 だが、プロポーズをされた今。その決心は揺らいでいた。
 大好きだった彼の笑顔が目の前にある。結婚してから見せなくなった優しい笑顔。

 無意識に溢れ出した涙が頬を伝う。
 やっぱり彼が好きだ。

「……はい。幸せにしてください」

 もう一度。もう一度だけ信じてみよう。今度こそきっと——。

「ありがとう。今回は泣いてくれるんだね」

   〈了〉

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