【掌編小説】自分ルール

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自分ルール/村田侑衣
1分で読める不思議な小説

 夢を見た。終わりの見えない長い線路を走る夢。枕木を二つ飛ばしで駆けていく夢の中の私は、背後に迫る何かから逃げていた。
 その後ろ姿を視線で追いかける宙に浮いた私には、夢の中の私が……彼女が一体何から逃げているのかがわからなかった。怯えて、震えて、必死で逃げて。やがて彼女はいつものように目を閉じて魔法の言葉を呟く。

「知ってるの。これが夢だって」

 そして次に目を開けるのは彼女ではなく私。いつも通りだった。

 視界にかかった薄い霧は五回目の瞬きで晴れた。窓から差し込む鈍い光と不快なノイズが告げる朝。繁忙期を迎えた梅雨の空は今日も涙を流しながら働いている。
 彼女はまた、私に現実を押し付けて逃げ出したのだ。
 ……本当に羨ましい。
 目を閉じて決まった台詞を呟くと夢が終わる。いつからか設けられていた彼女のルール。だから彼女はいつでも夢を、自分の世界を終わらせることが出来る。

「知ってるの。これが夢だって」

 目を閉じてそっと呟いてみたが私の世界は何も変わらなかった。やはり彼女と私のルールは違うのだろう。

「この世界は……どうすれば私も、目が覚めるのかな」

 雨音に消された独り言。本当は知っている私のルールに今日も気付かないふりをする。

   〈了〉

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