【掌編小説】合鍵

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合鍵/村田侑衣
1分で読めるホラー風小説

「ほら、これ。ないと不便だろ?」

 リビングでテレビを見ていた私に向かってそう言った彼は何かを投げた。部屋の明かりを反射させながらこちらに飛んできた銀色のそれを両手でキャッチする。

「鍵?」

「そう。この部屋の」

 一瞬理解が追いつかなかった。だが、徐々に喜びの感情が押し寄せてくる。
 彼の彼女になって二か月。部屋を訪れる回数は次第に増え、最近では半同棲状態になっていた。朝は一緒に家を出てお互い仕事に向かう。私の方が早く終わるので彼を迎えに行って一緒に帰る。休日も基本的に一緒。私一人で家に居ることもほとんどない。
 不便だと思ったことはないし、鍵を貰っていないことなど気にも留めていなかった。
 ただただ嬉しかった。三年間想い続けてようやく手に入れたこの幸せ。彼女になれて、堂々とそばに居ることが出来るようになって……合鍵を貰える日が来るなんて当時は思ってもいなかった。

「……ありがとう。大事にするね」

 付き合う前に作った鍵をキーケースからそっと外し、貰った鍵に付け替える。

   〈了〉

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