偽物の反撃/村田侑衣
1分で読める恋愛小説
「ねえ。鏡に映る私の瞳の中に映った私は本物? それとも偽物?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら彼女が言った。
「え……っと。鏡に映ってる時点で本物じゃないんじゃない?」
「なにそれ。つまんない」
急に真顔になる彼女。そう言われても困る。
いつもそうだ。正解なんて求められていない。彼女はこうやって不思議な質問を投げかけて、返答に困る僕を見て楽しんでいるだけなのだ。
この間は「水たまりの空を掴むにはどうすればいいの?」という質問をされた。悩んだ末に出した「無理だろ」という僕の解答はもちろん正解ではなかったようで、ニヤッと笑いながら「つまらない人ね」と言われた。
……たまには僕だってやり返したい。
柄でもない事は分かっているが、照れを精一杯隠しながら反撃のセリフを口にする。
「僕も、君の瞳に映る僕も。どの僕も瞳に君を映しているし、想いは全部本物だよ」
何が言いたかったのかは自分でもよく分からない。そっと彼女の顔色をうかがう。一瞬驚いているように見えたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「……あなた、さては偽物ね」
頬を少しだけ赤く染めた彼女。果たしてこれは本物なのだろうか。
〈了〉
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