140字小説 Vol.3

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【思い出売りの】

 雪が舞う路地裏で一人の少女が小さなパンを片手に震えていた。足元には『思い出売ります』と書かれたボロボロの紙。

「食べ物を貰う代わりに楽しかった頃の思い出話をして……でももう無いから……」

 涙を浮かべる瞳に光は見えなかった。

「商品の仕入れをしない?」

 僕はパンの代わりに手を差し出す。

【命名規則】

 名は体を表すって言うじゃない?
 だから、コンビニでレジの子にお釣りを渡されて少しニヤけたのも『浮気』だと思うの……重いかな?
 でも手足を別々に縛ってるしこれは『束縛』じゃないよね。
 今回は許すけどもう他の女を見ないこと。約束。ほら小指出して。

 これ? 剪定鋏せんていばさみ。『指切り』って名前なの

【アンガーマネジメント】

「お安くしますよ」

 玄関先で不快な笑みを浮かべる訪問販売の男は『簡単!アンガーマネジメント』という本を片手にそう言った。

 押しに弱い私。一度は断ったのだが結局二万円で買ってしまった。
 ため息を吐きながら本を開く。

『ばーか』

 ……まずはこの怒りをコントロールしろということなのだろうか。

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【八面六臂の苦悩】

 顔が三つだから『仏の顔も三度』なのだと思っていたが、目の前の仏には顔が八つある。
「活躍の場が」「マルチに」などと言っているが、要は人手不足で顔を増やされて神も兼任している、と。
 なのに腕は六本のまま。手が回らないと嘆いている。

「神も仏もないですね」

 俺の冗談に笑ったあれが死神らしい。

【カーディガン】

「今夜暇?」というメッセージに「ええ」と返信をする私。ただそれだけ。ベッドまでたった六文字で足りる関係。

「お前が一番だよ」

 いつの間にかソファーで煙草を吸う彼。

「ありがと」

 嫌いになれない横顔に定型文を投げ付けた。

「幸せだろ?」

「そうね」

 薄手の嘘をまた羽織る。春はまだ来ない。

【偶然】

 偶然入ったカフェで偶然座った窓際の席。彼を待つ私は隣の女性が同じ鞄を持っていることに気が付いた。
 私と同じリップを塗りながら気味の悪い笑みを浮かべる女性。耳には同じピアスが付いている。

「お待たせ」

 聞き慣れた声。振り向く女性。
 わかっていたが目的の相手も同じ。

「あら、」

 もちろん偶然。

【抜け殻】

「ヘビの抜け殻持ってたら本当に金運上がったみたいでさ。最近、他の抜け殻も持ち歩くことにしてるの」

「他の? 例えば?」

「セミ。あとカニとエビと……」

「……それ効果あるの?」

「多分」

「ないと思うけど……それで? そのスーツケースは何?」

「これ? お兄ちゃん。就活失敗しちゃって」

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