140字小説 Vol.4

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【プレゼントは私】

 静かな部屋で彼へのプレゼントを眺める。可愛い箱に入れたピアス。
「プレゼントは私」にするか散々悩んだ挙句、ずっと渡せずにいた。

 彼には彼女がいる。

 諦めきれなかった。渡さずに後悔したくなかった。
 だから両方贈ることにした。

「気持ちが伝わりますように」

 私の耳で光るピアスに願いを込める。

【内見】

「こちらの部屋は展望もよく……」

 十五階。確かに眺めは最高だ。

「また家具家電付きで……」

 お洒落な家具が並んでいる。

「さらに今なら家賃も半額で……」

 全額払うつもりだが。

「オプションとして私が付いてきます」

「……完璧な物件だな」

「ふふっ。でしょ? あ、でも将来式金が必要だよ?」

【記憶。消します】

『不要な記憶消します。五千円』

 噂の店で代金を渡す。受け取った店主は指を鳴らし「終わりです」と笑った。

「……消えてないよ?」

 鮮明に思い浮かぶ別れた彼女の笑顔。

「不要じゃないのでは?」

 そこでようやく気が付いた。
 ……これは大切な思い出だ。

「ありがとう」

「いえ。五千円になります」

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【かえるのうた】

 嗚咽を追うように歌い始めたアマガエルには頬の雨粒が見えているのかもしれない。

『もう会えない』

 携帯電話を片手に雨宿りを続ける私は紫陽花の下から空を見上げた。七夕……短冊に書かなくても願いは届くのだろうか。

「雨が降りますように」

 眩し過ぎる星に向かってそっと呟く。逢えない理由を求めて。

【リピート】

 私の好きな声を共有したくてあなたの右耳にイヤホンを付けるが何も反応してくれない。

「大好き」
 でも構わない。
『俺も』
 この声を聞くだけで幸せだから。
「大好き」
 だから、聞いてるふりでいい。
『俺も』
 感想も聞かない。
「大好き」
というか、もう聞けない。
『俺も』

 録音したこの台詞以外。

【恥ずかしがり屋】

「ねえママ。パパがまた写真送ってくれたんだけど……なんでいつもお面つけてるの?」

「恥ずかしがり屋なのよ」

「そっか……私パパの顔見たいのに」

「そうよね。単身赴任も三年目だもんね」

「会いに行けないの?」

「うーん。今度行こうね」

「今度って?」

「あなたがパパの顔を忘れたら。かな」

【バスジャック】

 焦りで何も見えていなかったのだろう。飛び乗ったバスで「バスジャックだ!」と叫んで周りを見渡すが、乗客は一人もいない。
 運転席に向かい「おい! このまま止まらずに……」と叫ぶがやはり誰もいない。

 ……技術の進歩は凄い。

 行き場をなくした感情と包丁をそっと鞄にしまい、降車ボタンを静かに押した。

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