140字小説 Vol.8

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【透明になる】

 転校初日。教室の隅に立つ彼女に恋をした。

「あの子なんで立ってるの?」

 誰に聞いても「あの子って?」と返される。だから直接聞いた。

「あなたも透明になるよ?」

 彼女は透明人間だった。そして、ここでは手を取った僕も透明になるらしい。

「まあ……仕方ないよ」

 それでも見えてしまうのだから。

【ゴキブリ】

 リビングに現れたゴキブリ。近くにあった新聞紙で叩くと潰れたそいつ。
 暫く放っておいたが「そろそろ処分しよう」と、ゴミ袋を用意する。触れようとすると微かに手が動いた。まだ生きていたのか……思い切り力を入れて袋に押し込んだ。

「あ、忘れてた」

 潰れたゴキブリをちりとりに乗せゴミ箱へと運ぶ。

【雪、また雪】

「雪だるまと私どっちが可愛い?」
「まずその雪だるまが可愛くない」
「えー。ならあなたが作ってよ」

 画面で笑う彼女から足元の雪だるまに目を移す。雪玉を重ねただけの雪だるま。不恰好なそいつに彼女が残したニット帽をかぶせる。

「ほら。可愛いだろ?」

 今年の雪は去年よりも少し冷たくて痛い。

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【白の指輪。黒の指輪。】

「この白の指輪あなたが落とした人の?」
「いえ……」
「こっちの黒の指輪?」
「あの」
「赤の指輪?」
「……分かりません」
「そろそろ認めたら? これ全部あなたが私に隠れて口説いた人達のものよ?」
「……はい」
「正直者ね。全部あげるわ。それで?」

「他にも私が落とす指はあるのかしら?」

【訪問者】

 静寂を破ったチャイムの音。持っていた包丁を置いた俺は、息を殺して玄関へと向かいドアスコープを覗いた。
 外にはニュースで見た逃走中の殺人犯に似た男が立っていた。静かに風呂場へ戻る。
 何の用かは知らないが無視すべきだろう。

「……とんだ災難だな」

 俺がこの部屋の住人なら通報してやるのに。

【重たい彼女】

 先月事故で死んだ彼女がとにかく重たい。姿は見えないが葬式の翌朝からずっと僕の肩に乗っている。もちろんそばに居てくれるのは嬉しい。だが、体が重くて何もする気にならない。
 ……そんなに信用出来ないのだろうか。

「君だけだから」

 日に日に重くなる彼女。今はもう起き上がることさえ出来ない。

【リモートマジック】

「先ほど覚えて頂いたカード。何でした?」
「ハートの6」
「ベッドの下を見てください」
「え? ある……何で?」
「マジシャンですから」
「いや、これライブ配信……リモートで出来るもんなの?」
「はい。凄腕なので。では次。千円札をお借りしたいのですが」

「今お財布どこに置いてますか?」

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