Twitterで掲載している140字小説まとめ
【透明になる】
転校初日。教室の隅に立つ彼女に恋をした。
「あの子なんで立ってるの?」
誰に聞いても「あの子って?」と返される。だから直接聞いた。
「あなたも透明になるよ?」
彼女は透明人間だった。そして、ここでは手を取った僕も透明になるらしい。
「まあ……仕方ないよ」
それでも見えてしまうのだから。
【ゴキブリ】
リビングに現れたゴキブリ。近くにあった新聞紙で叩くと潰れたそいつ。
暫く放っておいたが「そろそろ処分しよう」と、ゴミ袋を用意する。触れようとすると微かに手が動いた。まだ生きていたのか……思い切り力を入れて袋に押し込んだ。
「あ、忘れてた」
潰れたゴキブリをちりとりに乗せゴミ箱へと運ぶ。
【雪、また雪】
「雪だるまと私どっちが可愛い?」
「まずその雪だるまが可愛くない」
「えー。ならあなたが作ってよ」
画面で笑う彼女から足元の雪だるまに目を移す。雪玉を重ねただけの雪だるま。不恰好なそいつに彼女が残したニット帽をかぶせる。
「ほら。可愛いだろ?」
今年の雪は去年よりも少し冷たくて痛い。
【白の指輪。黒の指輪。】
「この白の指輪あなたが落とした人の?」
「いえ……」
「こっちの黒の指輪?」
「あの」
「赤の指輪?」
「……分かりません」
「そろそろ認めたら? これ全部あなたが私に隠れて口説いた人達のものよ?」
「……はい」
「正直者ね。全部あげるわ。それで?」
「他にも私が落とす指はあるのかしら?」
【訪問者】
静寂を破ったチャイムの音。持っていた包丁を置いた俺は、息を殺して玄関へと向かいドアスコープを覗いた。
外にはニュースで見た逃走中の殺人犯に似た男が立っていた。静かに風呂場へ戻る。
何の用かは知らないが無視すべきだろう。
「……とんだ災難だな」
俺がこの部屋の住人なら通報してやるのに。
【重たい彼女】
先月事故で死んだ彼女がとにかく重たい。姿は見えないが葬式の翌朝からずっと僕の肩に乗っている。もちろんそばに居てくれるのは嬉しい。だが、体が重くて何もする気にならない。
……そんなに信用出来ないのだろうか。
「君だけだから」
日に日に重くなる彼女。今はもう起き上がることさえ出来ない。
【リモートマジック】
「先ほど覚えて頂いたカード。何でした?」
「ハートの6」
「ベッドの下を見てください」
「え? ある……何で?」
「マジシャンですから」
「いや、これライブ配信……リモートで出来るもんなの?」
「はい。凄腕なので。では次。千円札をお借りしたいのですが」
「今お財布どこに置いてますか?」
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