140字小説 Vol.5

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【運命の作り方】

「すみません!」

 珈琲を浴びた僕のシャツを見て慌てる三年前に別れた彼女。差し出されたハンカチを受け取り「大丈夫ですよ」と微笑む。

「私達、前にどこかで会ってませんか?」

「こんな綺麗な知り合い居ないですよ」

 頬を赤くする彼女。運命の出逢いの完成だ。

 あまりこの顔は気に入っていないが。

【メンテナンスが必要です】

「ロボットのお前には過去も感情もない」

 博士が言うように私にはこの姿の記憶しかない。鉄の両足を見て悲しくなるのは「不具合」らしい。

 だから今、血を吐いて倒れた博士を見て苦しいのもきっとそう。

「博士」

 体を揺らすが動かない。
 目の水滴も「お父さん」と叫んでいるのもきっと全部不具合だ。

【似】

「日が暮れちゃう」

 レストランのメニューを食い入るように見る僕にいつもの声が飛んでくる。学生の頃から変わらない台詞。柔らかな声で優柔不断な僕を急かす彼女は、慌てる様子を眺めて笑う。

「ひがくれちゃう」

 二度目の催促に思わず笑う僕。小さな彼女の呆れた表情は、いつかの妻にそっくりだ。

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【横顔が好きだから】

 僕は彼女の横顔が好きだ。勿論、正面から見る顔も好きなのだが、横顔のそれとは比べものにならない。
 右側からだと目の下のほくろが、左側からだと口の横のほくろが見える。二人の時は決まって左右どちらかに座り横顔を眺めていた。

 だから今、本当に幸せだ。

 横に並べて同時に眺める事が出来るなんて。

【シーグラス】

「ほら、シーグラス。綺麗」

 長い髪をかき上げながら座り込んだ彼女。

「ハートに見えない?」

 拾ったそれをこちらに差し出す姿は背景の波と相まって僕の瞳に絵画のように映る。

 秘密の恋。互いに家庭を離れたこの時間。

 手の上で輝くシーグラスがどこか曇って見えるのは、おそらく気のせいではない。

【壁に耳あり障子に目あり】

「あいつだけは一生許さない」

「あいつって……まさか部長?」

「そう。さっきまた怒鳴られてさ……」

「やめとけって。会社でそんな話」

「なんで? お前は何とも思わなかったのかよ」

「思うけど……聞かれたらマズいだろ? 壁に耳あり障子に目ありって言うし」

「大丈夫だよ。全部土の中だから」

【必勝法】

 意見が割れた時はじゃんけんで決める。たしかに八年間そうしてきた。でも私の「結婚したい」に「じゃんけんだな」と答えるのは流石に酷いと思う。

「私の勝ち……」

 初めて勝った。絶対に負けなかった彼が……そうか。
 必勝法。こういうことか。

「ありがとう」

 グーしか出せなくなった手をそっと握る。

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