Twitterで掲載している140字小説まとめ
【メリーさんを待って】
『私メリーさん。今コンビニにいるの』
『私メリーさん。缶コーヒーでよかった?』
『私メリーさん。今公園前の交差点だよ』
温かい缶コーヒーを墓前に供える。
「メリーさん。今目の前にいるよ」
いつになっても後ろに来ないメリーさん。冷たい背中に気付いていながら、僕は今日も無意味に振り返る。
【わ・が・ま・ま】
「何でも一つだけお願い聞いてやるよ」
終電時間の十五分前を告げるアラームが鳴る中、ベッドの上で彼は優しく囁いた。
「帰りたくない……ずっと一緒に居たい」
そう言って布団に潜った頭を彼は撫でる。
「二つじゃん。本当にお前は我儘だな」
私もそう思う。
一つ目は私が叶えるから。その女の願い。
【壺】
「この壺買わない? 千円で」
木箱に入った壺をこちらに見せる露店商。
「いらない」
「一万円で売れるよ?」
「……なら売ってから払う」
半ば強引に奪って別の露店に持っていくと本当に一万円で売れてしまった。
「……いいのか?」
戻って千円札を渡す。
「まいど」
「あ、箱は返してね。高いから」
【向日葵】
向日葵が日回りなのは花が咲くまで、という話を聞いて少し安心した。仏壇で笑う妻がこちらを向いてくれないのは、元気に咲いている証拠なのだろう。
「こっちはもうすぐ咲くよ」
通り雨を浴びた庭の向日葵は雲の隙間に顔を向けた。
眩しすぎる日々。
枯れた心が追いかけるのは水たまりで揺れる太陽らしい。
【変わる、変わらない】
「私のこと綺麗だと思う?」
四十年前と同じ質問をしてきた妻。当時と同じように「ああ」と答える。
「ふふっ。愛の力ね」
「恋の魔法じゃなくて?」
前と違う答えをした彼女は自らの手を眺めて「もう魔法は解けたの」と笑った。
——その横顔に恋したままだ。
口にはせずに皺だらけの手をそっと握る。
【あれもない、これもない】
「そんなにスマホが気になる?」
そう聞かれて「別に」と答えた俺に、彼女は写真を見せてきた。
「待ってもメールは来ないよ」
浮気相手と俺のツーショットだった。「誰? なんの話?」必死で誤魔化す。
「諦めたら? あなたもその女も同じ」
頬杖をつく彼女は優しく微笑んだ。
「もう打つ手がないの」
【福袋】
『色んな袋が入った福袋!』
興味本位で買った布の福袋。中には化粧品と料理本とレトルトの肉じゃがが入っていた。
涙袋と胃袋と……お袋ということだろうか。これで一万円は流石に酷い。
クレームを入れようかと考えている最中、袋の内側の文字に気づいた。
『苦情はこちらへ』
ああ。これは堪忍袋か。
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