140字小説 Vol.7

Twitterで掲載している140字小説まとめ

【お揃い】

 歴代の彼氏は皆、お揃いにこだわる私の言うことを基本的に何でも聞いてくれた。服も靴もアクセサリーも。お願いすれば何でもお揃いの物を買ってくれた。なのに誰も名字をお揃いにはしてくれなかった。

「気持ちはお揃いじゃなかったんだね」

 私を見上げる元彼たち。

 揃った雁首はどれも返事をしない。

【ハッピーエンド】

 降り注ぐ陽の光を浴びたステンドグラスは教会の中を虹色に染める。
 少し緊張気味の彼はベールを上げると、目を閉じて待つ彼女のあごを持ち上げて誓いのキスをした。
 笑顔と拍手に包まれる二人。物語は一旦ここで幕を下ろすわけだが、そこに私がいないなんて許せない。

 ハッピーエンドには絶対にさせない。

【千両役者】

「月が綺麗だな」

 放課後の教室。学園祭で披露する演劇の練習をする私と彼は、差し込むオレンジを身に纏う。

「本当ね。綺麗」

 彼に倣って、見えない月を視線で追った。

「お前の方が綺麗だけどな」

 台本を見た私は鼓動を抑えながら呟く。

「……大した役者ね」

 そんな表情でアドリブを言えるなんて。

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【クローゼット】

 クローゼットの隙間から視線を感じる。恐る恐る顔を向けると小さな子どもが何も言わずにこちらを見ていた。
 驚きの声をなんとか抑えて扉をそっと閉める。……きっと気のせいだ。
 見なかったことにしようとしたが、再度扉を開けたその子は笑顔で話しかけてきた。

「おじさん誰? そこで何してるの?」

【無料サンプル】

 駅前で配っていたダイエットサプリ。無料サンプルと言われてつい受け取ってしまった。
『効果ありました?』
 一か月後、電話がかかってきた。
「特には……」
 満足度調査。ということらしい。
『そうですか』
「あの、購入する気はないので……」
『はい。ちなみに』

『体調は特に問題ないですか?』

【春】

 暦が告げる春は名ばかりで、冬の終わりを知らせる景色は私の元には届かない。

「ちゃんと別れる。愛してるよ」

 その言葉を抱いて雪解けを待つ新芽は今日も土の中。未だ身を隠す術しか知らない。
 ——枯れてしまえばいいのに。
 色を失くした溜息は微かに冷たい夜風に溶けて、モノクロの梅をそっと揺らす。

【ミスディレクション】

「左手出して。私が右手で握るからよく見ててね。あ、左目で。右目はここ。私の左手。いい? 一瞬だから……はい。コートの右ポケット確認してみて。無くしたものが入ってるから。ね? 私の写真。ゴミ箱にあったの。またあの女が捨てたのね。本当に……何? 私まだ喋ってるんだけど。右目? だからここだって」

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