140字小説 Vol.12

Twitterで掲載している140字小説まとめ

【夢枕】

 最近同じ夢を見る。枕元の知らないおじさんに悩みを聞いてもらう夢。
「受験、大丈夫かな……」
「大丈夫」
 おじさんはいつも笑ってくれる。
 薄々気付いていた。おじさんの手を……生まれる前に死んだ父の手をそっと握る。
「ありがとう」
 初めて触れた父は本当に温かかった。

 夢とは思えないくらい。

【タカシ君】

『三階のタカシ君の部屋から五階のアミちゃんの部屋まで階段で二分くらいです。サトル君の紹介で知り合った二人はご近所さんでした。カナちゃんが出掛ける僅かな時間に密会を重ねていましたが、今は仲良く一階のゴミ置き場です。さて、サトル君。カナちゃんはあと何秒で君の部屋に着くでしょうか?』

【コーヒーの香り】

 懐かしい香りが鼻腔をくすぐる。ベッドから飛び出した僕はリビングへと向かった。
「あれから缶コーヒーばかりでしょ?」
 笑顔でカップを差し出す妻。受け取った僕は必死に言葉を絞り出す。
「……ありがとう」
 瞬きとともに湯気の向こうの妻は消えた。
 口へ運んだ珈琲は、あの頃よりも少しだけ苦い。

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【パパ】

「僕が守るから」
 パパが死んで抜け殻になったママ。僕の声は聞こえていなかったのかもしれない。
「ほら。顔を見て挨拶して」
 さっき新しいパパを連れて帰ってきた。
 悔しかった。でもママは笑顔だ。
 ……仲良くしよう。
「よろしくね。パパ」
 ママの腕の中の大きな石に挨拶をする。顔はどこだろう。

【悪魔】

「その部屋には悪魔が眠ってるの」
 自分の家の一室を指差してそう言った彼女。
「悪魔?」
 確かにこの部屋には入ったことがない。好奇心を抑えきれずこっそり部屋を覗いた僕は言葉を失う。
 先日行った飲み屋の女の子が倒れていた。
「次は昨日の合コンに居た悪魔が眠るの」
 振り向いた先で悪魔が笑う。

【マナーモード】

「お前らやる気あ」
 陽気な着信音が怒号を遮る。デスクの上に投げ出した足を小刻みに揺らしながら説教を続けていた部長が眉をひそめた。
「マナーモードにしとけよ!」
 俺がそう注意すると隣で一緒に説教を受けていた新人は部長に近づいていった。
「ボタンはどこですか?」
 主任が黙って震えている。

【菜の花】

 美化され続ける思い出は気付けば足枷となっていた。もう一度彼に会えたら——。ありもしない可能性に縋り立ち止まったままの私。願いを込めて伸ばした右手は星を掴めず夜空を泳ぐ。……忘れられたらいいのに。全部あの冬に見た夢だったらよかったのに。首を振って否定する菜の花が今年も私に春を告げる。

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